教育へのデジタル技術の応用 

その意義は教育機会のセーフティネットにとどまりません。リカレント教育や国際的連携の推進にも有益なツールとなります。

 新型コロナウィルス(COVID-19)の世界的拡大は、各国でリモート教育の利用を加速させている。日本でも、多くの大学がオンライン授業に切り替わったことで、郷里に戻ってPC経由で授業を受けたり、夜中に友人とリモートでチャットをしている学生さんたちも多いのではないだろうか。

 昨年9月、「電子立国(e-Estonia)」の取り組みで有名なエストニアを訪問した際、エストニア当局者は「教育の電子化(e-education)」および「電子学校(e-school)」の意義を大いに語ってくれた。教育のデジタル化を通じて、居住地が遠隔の地であっても大きな不利益にならず、誰でも進んだ教育を受けられること、子供たちがデジタル技術に慣れ親しむ機会が得られることなどである。エストニアは既に2015年の段階で、2020年までに全ての教材をデジタル化する目標を立て、これに取り組んできた。

Videopresentation: e-education

 エストニア当局者は、生徒と先生、および生徒同士が対面で触れ合うことの大切さも十分認識していた。そのうえで、「対面での教育が重要であることは、教育にデジタル技術を活用しない方が良い理由にはならない」とも強調していた。例えば、デジタル化により、小学生が風邪で学校を欠席する連絡や宿題の確認などを、全て先生と親がオンラインで行うことができるようになった。このようなデジタル技術の活用により、先生方や親の管理負担を軽減し、より子供たちの創造性を伸ばす方向にリソースを注力できるし、生徒のドロップアウトを未然に防ぐこともできているとのことであった。実際、OECDの学習調達度調査(PISA)でも、エストニアは読解力(reading)、科学(Science)でOECD37か国中第1位を誇っている。

PISAのトップパフォーマンス国<資料:OECD>

PISA2018.png

 さらに、新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大の中、エストニアのe-educationは、「教育の頑健性」という面でも、現在その効果を発揮している。

 UNESCOの調査によれば、426日時点で、全世界の生徒の87.9%、153,872万人の生徒が、Covid-19により学校に通えないといった影響を受けている。そもそも登校ができない状況で、オンライン教育という選択肢がなければ、子供達から教育の機会そのものを奪ってしまうことになりかねない。もちろん、誰もが平等に近い条件でオンライン教育を受けられるためにはインターネット網の整備などが求められるが、居住地や親の収入などによる差を埋めるよりは容易なはずだ。そもそも、エストニアが電子国家化に舵を切ったのは、貧しく、かつ、人がまばらに住んでいることが多かったエストニアでは、それが唯一の選択肢だったからというのが、当局者の説明であった。

COVID19により影響を受けている生徒数<UNESCO調べ、単位10億人>)
紫:Country-wide closure、赤:Localized closure

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 デジタル技術は、リカレント教育にとっても有益なツールとなる。各国が貴重な人材を有効に活用していくには、子供達だけではなく、成人にも最先端の知識やノウハウを習得できる機会を提供し続けていく必要がある。この点、デジタル技術を活用したオンライン教育は、時間の制約の厳しい社会人なども含め、幅広い人々に再教育の機会を提供することにも役立つ。

 さらに、教育へのデジタル技術への応用を通じて、複数の国々が国境を越えて教育機会の提供のために連携していくことも可能となる。
 
この3月、デンマーク、エストニア、フィンランド、アイスランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スウェーデンという北欧8か国は、デジタル化された教育のツールを共有し、COVID-19の拡大の中で他国にも積極的に提供する取り組みを始めた。(「英語であれば」という条件付きではあるが、)優れたツールを国境を越えて共有し、広く利用できることも、オンライン教育の一つの利点である。

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 もちろん、オンライン教育が対面での教育を全て代替できるわけではない。対面での教育から得られるような、教師と生徒、あるいは生徒同士の自由で活発な意見の交換、そこから生まれる発想やセレンディピティなどに、オンラインでどこまで近づけるのかが、これからの課題となるだろう。

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