市長が給与を暗号資産で?

最近の暗号資産関連のニュースとして、米国マイアミ市の市長が給与を暗号資産で受け取る意向を表明したことが挙げられます。マイアミで何が起こっているのか解説します。

 今秋、米国マイアミ市のフランシス・スアレス市長は、今後は給与を暗号資産ビットコインで受け取ると述べ、また、住民にビットコインを配るとツイッターで発信しており、注目を集めています。

 もちろん、市長の給与を含め、市の経費は予算として議会で決定されるものですので、米ドル建ての支出額がいくらになるかわからない給与の出し方はできないはずです。報道によれば、現実にはやはりマイアミ市長の給与はドル建てで支払われており、そのドルでビットコインが購入されているようです。

マイアミコインとは

 このような市長の発言が示すように、最近マイアミ市は、暗号資産関連で話題を集めることが多くなっています。とりわけ関心を呼んでいるのが、本年8月から発行されている暗号資産「マイアミコイン」(Miami Coin,$MIA)です。

 このマイアミコインは、マイアミ市が発行しているわけではありません。このコインはCityCoinという団体により運営され、マイアミ市を支援するために自発的に発行されていると説明されています。

©️CityCoins

 マイアミコインが欲しい人は、暗号資産"STX"を拠出し、コインを入手するための「マイニング」に参加します。拠出されたSTX3割はマイアミ市に寄付され、7割はマイアミコインの既存の保有者に配当として配られます。マイアミ市は寄付されたSTXをドルに換え、プロジェクトやイベントなどの支出を賄うことができるわけです。

 現在、マイアミコインに続き、ニューヨークシティコイン(NYCCoin)も同様のスキームで発行が開始されています。

ニューヨークシティコインの概念図

©️CityCoins

「タダのランチ」はない!

 もちろん、このようなスキームは中長期に持続可能とは言い難いものです。マイアミコインを保有する人への配当には、後からマイニングに加わる人のSTXが充てられている訳ですので、マイアミコインの保有者が増え、一方でマイニング参加者が減るにつれて、いずれ配当はゼロに近づいていくはずです(そうでないと、つじつまが合わなくなります)。やはり、「タダのランチ」はないのです。

 したがって、通常であれば地方自治体は、自らが宣伝広告等に使われることを警戒し、このようなスキームとは距離を置くでしょう。少なくとも、市はコインの発行に関わっておらず、コインを入手する行為は実質的に寄付であることを、人々にきちんと認識してもらう必要があります。

 もっとも、マイアミ市はマイアミコインを通じた寄付を既に受け取っており、スアレス市長は、市はマイアミコインを通じて2100万ドル(約24億円)以上を得たと発言しています。さらに市長は今月、マイアミコインを通じた収入をもとに、マイアミ市民にビットコインを配布するとツイッター上で表明しています。

 このような情報発信が先行きリスクに繋がることがないかは、一つの留意点でしょう。マイアミコインの保有者が、市への寄付という趣旨ではなく、現実にはマイアミコインへの配当や市の公的なサポートを期待している場合、この期待が裏切られれば市政への信認まで低下するおそれがあるからです。

 また、このコイン発行のスキームが今やマイアミだけでなくニューヨークも対象とする中、このスキームがこれまで以上に注目を集める可能性もあるでしょう。

地域経済活性化に必要なこと

 暗号資産の発行は、世界的にみても、手っ取り早く発行益を得られる可能性があることなどから、人々が飛びつきやすい分野です。しかし、地域経済の持続的発展にとって、暗号資産の値上がり期待や配当期待を利用することは本筋ではありません。デジタル技術を広範な産業の発展や住民の利便性向上に役立てていくことを、まず考えていくべきでしょう。

 マイアミ市は、市をブロックチェーンや分散型台帳技術の集積地とし、エンジニアや関連産業を誘致したいとの意図を表明しています。この点、市がマイアミコインとの適切な距離の確保を誤れば、むしろ人々の警戒感を招いてしまうおそれもあるでしょう。今後マイアミ市が、デジタル技術を産業育成や市民への情報開示、事務効率化などに活用する取り組みをどの程度本気で進めていくのか、注目したいと思います。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。

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